糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
糖尿病網膜症とは
糖尿病を持っていると、腎臓や神経の障害とともに目にも合併症を発症する可能性があります。糖尿病による目の障害は諸々ありますが、主なものを挙げると、黒目(角膜)の傷が治りにくくなる糖尿病角膜症、そして眼球を動かす筋肉が麻痺して斜視を発症したり、網膜の血管がもろくなるために徐々に障害が進行して失明に至る糖尿病網膜症があり、視神経に突然障害が起こり急激に視力が高度に低下することもあります(糖尿病視神経症)。
糖尿病網膜症は自覚症状なく発症します。症状がないまま治療の時期が来て、見えにくいなどの症状が出た時には治療時期としては遅いことが多いです。また、網膜は神経ですので一度落ちた視力などの視機能は完全には健康な状態までは戻りません。そして治療しなければ失明の可能性があります。
糖尿病のほとんどの合併症は内科で管理できますが、目の合併症は内科では診察できませんので眼科への通院が必要です。
糖尿病網膜症の「病期」による注意点と治療
●糖尿病網膜症発症前
糖尿病と診断されると、目にも合併症が出る可能性のお話が内科医師からあると思います。眼科にかかる時期であるということですので、眼科受診をお願いします。一度眼科に誘導した内科は眼科に管理を任せるため、内科から毎回眼科受診を指示されるわけではありません。眼科への定期受診を忘れずに受けてください。
●単純糖尿病網膜症
糖尿病網膜症が発症したことで、これ以上進行しないように注意する時期です。内科での治療、血糖値のコントロールにより気を配っていただきたい時期になります。眼科受診の間隔が短くなります。次の病期に移行するまでの期間が一人ひとり違うためですので、通院を継続してください。
●増殖前糖尿病網膜症
単純網膜症から増殖前網膜症の時期に入ると視機能低下の危険が出てくる可能性のある時期になってきます。眼科通院を欠かさず、適切な時期に治療開始できるようにしましょう。蛍光眼底造影検査を受けて、必要があればレーザーなどの治療を開始します。
●増殖糖尿病網膜症
増殖前網膜症から増殖網膜症に移行すると、目の中にできてはいけない新生血管が出現したり、繊維細胞などが眼の中で増殖して網膜の上に増殖膜が作られてきます。網膜剥離を発症したり、硝子体出血を発症して突然ほとんど見えなくなってしまう可能性もある時期です。手術などの治療を受けても視機能障害が残ってしまったり、失明する可能性もあり危険な病期です。増殖糖尿病網膜症がかなり進行すると難治性の緑内障(血管新生緑内障)を発症し、手を尽くしても失明する危険があります。
糖尿病網膜症の治療
眼科での治療としては、増殖前網膜症、増殖網膜症の初期に網膜光凝固術(レーザー)を施行します。糖尿病による血管障害で毛細血管が閉塞し、網膜全体に栄養をいきわたらせることができなくなっているため、レーザーで網膜を焼いて間引きし、網膜の面積を小さくする手術です。レーザーは網膜を破壊する治療になります。視力を上げる処置ではありません。網膜の面積が小さくなるため受け取れる光が減りますので、術後は少し暗く感じられる場合があります。また、視野がやや狭いように感じられる場合があります。
硝子体出血や増殖膜で視力が低下したり網膜剥離などを発症した場合には、硝子体手術で、出血や増殖膜を取り除き、網膜剥離を治療します。
血管新生緑内障を発症した場合には、点眼薬、内服薬、レーザーなどの治療が奏功しない時には眼圧を下げる緑内障手術を施行することもあります。