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疾患解説 男性不妊治療

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当科での男性不妊診療の流れ

男性不妊治療は、生殖医療専門医である大橋医師が行っています。当科を受診希望の方は、診療日等について、事前に当科外来まで問い合わせすることをおすすめします。
他の婦人科不妊クリニックや泌尿器科からの紹介状(診療情報提供書)をお持ちの方は、予約が可能ですので、地域連携室(03-3399-0257)までお電話ください。
当科の診療は、原則として保険診療で行っています。後述する虹クリニックと連携した諸治療や、ED(勃起障害)に対するバイアグラ等の内服治療も2022年4月より保険診療となりました。
患者さんが多く、診療までお待たせすることがあります。時間の余裕を持って受診されることをおすすめします。

受診前にご主人様は3日以上の禁欲期間を設けてお越しいただければ、初診時の精液検査が可能です

▲ 男性不妊診療担当 大橋 正和

診察当日
①診療前に、ご夫婦の情報、男性機能(性欲、勃起、射精)等を問診票に記入いただきます
②尿検査をします
③医師の診察
④診察後に精液検査、ホルモン検査(採血)をします

次回診察日
検査結果を基にした診断と治療方針をお話します

精索静脈瘤に対する手術治療
―リンパ管温存低位結紮術ー

精索静脈瘤とは

精索静脈瘤とは、陰嚢の静脈が拡張した状態をいいます。静脈とは、内臓を栄養し終わって心臓に戻る血管のことです。陰嚢静脈の血液は『精巣静脈』を通っておなかの中の太い静脈に入り心臓に戻ります。しかし、起立している時や、おなかに力を入れた時に、血液がおなかの中の太い静脈→精巣静脈→陰嚢静脈へと逆流し、陰嚢静脈に鬱滞(うったい)した血液のために陰嚢が腫れて見えます。これが精索静脈瘤です。精索静脈瘤は生まれつきのものであり、静脈の特殊な走行のため、精索静脈瘤はほとんど左側に生じ、軽いものを含めると全成人男性の10~20%に見られます。

精索静脈瘤と男性不妊症の関係

静脈血が陰嚢静脈に鬱滞(うったい)すると、精巣の温度が高まり、精巣での精子を造る機能が障害され、精液所見が悪くなります。すなわち、精索静脈瘤は男性不妊の原因となります。通常、精索静脈瘤は無症状で、泌尿器科専門医の診察により初めて発見されます。時に、患者さん自身が陰嚢の腫れや違和感に気付くこともあります。

精索静脈瘤の手術適応

お子様を望まれて男性不妊外来を受診され、精液検査で精液所見が不良で、高度な左精索静脈瘤が認められたご夫婦には、治療法の一つとして精索静脈瘤手術をお話しています。また、陰嚢の腫れや違和感といった症状のある患者さんに対しても、手術の相談にのっています。精索静脈瘤の手術は、精巣静脈を縛って、陰嚢静脈への血液の逆流を止めることにあります。精巣静脈を縛っても、静脈血は他の静脈を通り心臓に戻ってゆくので心配ありません。

実際の手術方法

左下腹部を約2.5センチ切開します(図1)。手術用顕微鏡を用いて、精索(動脈、静脈、リンパ管を含む束)の中の、精巣静脈のみを縛る『顕微鏡下低位結紮術』を行います(図2)。リンパ管を残すことにより、陰嚢水腫という合併症を防ぐことができます(図3、4)。手術は、入院のうえ全身麻酔、または腰痛麻酔下に行います(月:入院、火:手術、水:退院)。所要時間は90分ほどです。手術創はテープで留めるので抜糸の必要がありません。この手術は保険が効きます。


  • 図1 手術創の位置(赤線)

  • 図2 顕微鏡下で手術中

  • 図3 手術前の精索

  • 図4 手術後の状態 動脈(赤△)1本、リンパ管(黄色△)2本が温存

手術後の精液所見改善率、妊娠率

手術による精液所見改善度は、手術後3ヵ月、6ヵ月の精液検査で評価し、手術により約50-60%の患者さんの精液所見が改善します。また、精液所見には表れてきませんが、手術により精子のDNA損傷の度合いが改善するということが分かっています。手術後の患者さんへの聞き取り調査で、約35%のご夫婦が妊娠に至っていました(通常の夫婦生活、人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)を含めて)。

無精子症に対する精巣内精子採取術(TESE)

虹クリニックでの顕微授精(ICSI)に提供
当科と虹クリニックは、無精子症や射精ができないご主人様の精巣から直接精子を採取(TESE)して凍結保存し、それを奥様の卵と体外で顕微授精(ISCI)させ、受精卵(胚)を奥様の子宮に移植(ET)するという一連の治療を緊密なる連携の下で行っています。当科がTESEを、虹クリニックが精子の凍結保存、ICSI、ETを担当します。TESEは荻窪病院手術室で行われます。TESE時には、精子・卵を扱う専門職種である「胚培養士」が、虹クリニックから荻窪病院に出張し、TESEで得られた精巣組織を拡大顕微鏡下にほぐして、精子が存在すれば回収して、虹クリニックに持ち帰り、ICSI用に凍結保存します。

TESEの適応疾患

(1)閉塞性無精子症
精巣では精子はできているのですが、精子の通り道が閉塞しているために、精液中に精子がない場合です。閉塞性無精子症では、精巣容積、血中ホルモン値は正常に保たれます。閉塞部位が明らかな場合は、手術で閉塞を解除することにより、精液中に精子を出現させることができます。しかし手術が不成功の場合や、手術が不可能な場合は、TESEの適応となります。
(2)非閉塞性無精子症
精巣で精子が十分にできないために精液中に精子が無い場合です。この場合、精巣容積は小さく、血中ホルモン値、特にFSH値が高くなります。精巣内でわずかに精子が造られている箇所を求めてのTESEが適応となります。染色体異常を合併することがあります。
(3)射精障害
どうしても射精をすることができない場合です。精巣で精子ができているかどうかは、精巣容積、血中ホルモン値より推察できます。TESEが検討されます。

TESEの方法と成績

TESEには、MD-TESEとC-TESEの2つの方法があります。MD-TESEとは、2泊3日の入院のうえ、全身麻酔、または腰椎麻酔下に、手術用顕微鏡を使用して、精巣内で精子が造られている箇所を求めて精巣組織を採取するもの(図5,6)です。MD-TESEにて回収された精子を図7に示します。麻酔を含め、所要時間は2時間~2時間半です。C-TESEとは、日帰りで、局所麻酔下に行うTESEのことです。手術用顕微鏡を使用せずに、約1時間で精巣組織の一部を採取します。C-TESEは、閉塞性無精子症であることが明らかで、100%精子回収が期待できる患者さんに行われます。当科における、MD-TESE/C-TESEの精子回収率の成績を下に示します。

子孫への影響

(1)染色体異常による無精子症の場合、TESEにより妊娠すると染色体異常が子孫に影響を及ぼす可能性があります。子供への影響は染色体異常のタイプに異なります。TESEを行うご夫婦には、染色体検査(血液検査、保険診療)をおすすめします。

(2)非閉塞性無精子症の患者さんの5~8%には、Y染色体上の精子を造るのに必要な遺伝子(AZF)に異常があることが分わかっています。AZFにはa,b,cのサブタイプがあり、AZFaまたはbに異常がある場合は、TESEを施行しても精子が回収できないことが分かっています。また、AZFcの異常では、TESEは可能ですが、子孫(男児の場合)に遺伝し、その男児が将来不妊症となる可能性があります。TESEを行うご夫婦には、Y染色体遺伝子(AZF)検査(血液検査、保険診療)をおすすめします。

(3)閉塞性無精子症の1つである先天性精管欠損症の患者さんでは、嚢胞性線維症という病気で見られるのと同様の遺伝子異常のある方が多いということが海外で報告されていますが、しかし、現在のところ、先天性精管欠損症よりTESEで誕生したお子様に、嚢胞性線維症の合併例はありません。


  • 図5 MD-TESEでの精巣所見

  • 図6 MD-TESE(手術用顕微鏡視野)

  • 図7 MD-TESEで回収された精子

当科のMD-TESE/C-TESEの精子回収率(2012~2023年度 計195例)

術前診断 精子回収(+) 精子回収(-) 精子回収率(%)
閉塞性無精子症 61 9 70 87
非閉塞性無精子症 37 77 114 32
射精障害 11 0 11 100

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