不整脈とカテーテル
アブレーション
不整脈とカテーテルアブレーション④
その他のアブレーション適応の不整脈
頻脈性不整脈のほとんどがアブレーション適応になりますが、他に代表的なものを2つ説明します。
心房粗動
心房粗動(しんぼうそどう)は、心房細動が止まる過程で心房内を電気が回り始めて起こる不整脈です。電気は1分間に三尖弁の周囲を250~300回のスピードで回転しますので、2回転に1度の刺激が心室に伝わると脈拍数が1分間に約150回となり、3回転に1回伝わると脈拍数が1分間に約100回となります。また、心房細動と違い、脈拍は比較的規則正しくなります。
心房粗動は決まった回路をくるくる回っている不整脈なので、比較的安定化しやすく、薬が効きにくいことがあります。また、心房細動と同様、脈拍が早くなるため、数日間続くと心不全症状が出現したり、運動したり怒ったりしたときに心房と心室間の電気が通りやすくなり、1分間に300回近い電気刺激が心室に伝わってしまいます。すると、心臓のポンプがそんなに早い収縮に対応できず、血液を送り出せなくなり、血圧が下がり意識をなくして倒れてしまったり、悪性の不整脈を誘発し、突然死につながる可能性もあります。そのため、心房粗動はカテーテルアブレーション治療をすることが望ましいと考えられています。
カテーテルアブレーション治療が成功するかどうかは、不整脈の回路がどこにあるかにかかっています。心房粗動のほとんどが右心房と右心室にある三尖弁の周囲を旋回する回路を回ることがわかっており、この場合は治療方法も確立していて成功率もよいのですが、まれに別の部位で旋回していることもあり、その場合は治療が困難なことがあります。
そのため、治療にあったってはまず不整脈の回路がどこにあるのかを調べることが非常に重要になります。その検査を心臓電気生理検査といい、アブレーションの前に不整脈の誘発を行い、不整脈を起こしている回路を見つけ出します。回路がみつかれば、その部分をアブレーションし、20~30分経過をみて心房粗動が誘発されなくなったことを確認して終了となります。
発作性上室性頻拍症
発作性上室性頻拍症(ほっさせいじょうしつせいひんぱくしょう)とは、字が示す通り、発作的に急に脈が早くなる不整脈の発作を起こす病気で、その原因が主に心房(心室の上方なので上室性と呼びます)にあるものをいいます。
特徴としては、今まで1分間60回くらいから80回くらいの脈拍が突然1分間160回くらいか、それ以上の脈拍になり、人によっては動悸のほかにふらついたり、目の前が暗くなったり、立っているのがつらくなったりする症状が出ることがあります。脈は速いのですが、乱れはなく、規則正しく脈をうっていることが多いのが特徴です。止まるときも、始まるときと一緒で、急に止まって元に戻るのが特徴です。
この突然の頻拍を起こす原因は、以下の3つが考えられます。
①WPW症候群によるもの
WPW症候群の人は生まれつき心房と心室を結ぶ電線が房室結節以外のところにもある(副伝導路といいます)状態になっています。余分な電線があるというだけでは治療の必要性はないのですが、疲れたり、ストレスがたまっていたりすると、期外収縮という脈の飛ぶような不整脈が出やすくなります。ある条件が整うと、余分な伝線を電気刺激が逆行して心室の電気が心房に入り込み、その電気刺激がまた正常の房室結節に入り込み、その刺激がまた余分な電線を通って心房に伝えられるという回路を形成してしまい、規則正しい脈の速い発作を起こします。
正常な心臓の人は、心房と心室をつなぐ経路は房室結節しかなく、房室結節には、あまり速い脈は心室には伝えないという性質があります。しかし、余分な電線にはそのような特殊な性質がないため、ものすごく早い電気刺激でも心室に伝えてしまうことがあります。1分間に300回近い刺激が心室に伝えられてしまうと、心室もびっくりしてけいれんを起こしてしまうことがまれにあるといわれています。心室は全身に血液を送り出すポンプの役目を主にしていますので、心室がけいれんしてしまうと、全身に血液が送り出せなくなり、倒れてしまう可能性もあり、最悪の場合はそのまま心臓が止まってしまいます。そのため、WPW症候群で心房細動という不整脈をもっている方は治療をするのが望ましいと考えられています。
②房室結節二重伝導路によるもの
心房と心室を伝導する房室結節に性質の違う2種類の電線が存在することがあります。電気を早く伝導させる電線と、ゆっくり伝導させる電線です。通常は電気を早く通す経路を通って、電気刺激は心室へと伝えられるのですが、WPW症候群の時と一緒で、ストレスや疲れがたまってくると期外収縮という脈が飛ぶような不整脈が出るようになります。
それが、ある条件で房室結節へ入り込むと、通常は働いていない遅い伝導路を伝わり、早い伝導路を逆行して電気刺激を再び心房へと戻してしまうことがあり、それがまた、遅い伝導路に入り、早い伝導路を逆行するという回路を形成し、頻拍発作を起こすことになります。この様な流れで起こる頻拍発作は房室結節回帰性頻拍症と呼ばれます。
③異常細胞の自動能によるもの
心臓の中には自分で電気を作る作用をもった細胞があり、それにより脈拍が作られるのですが、中には異常な電気刺激を出す細胞があることがあります。その異常細胞が何らかのきっかけで早い電気刺激を突然出すようになると、脈の突然早くなる頻拍発作を起こします。この様な機序で起こるものを、異常細胞の自動能による心房性頻拍症といいます。
発作性上室性頻拍症は上記のように主に3つの原因が考えられるため、この3つのうち、どの原因で起きているかを心臓電気生理検査で診断します。
- 心臓電気生理検査
- 心臓電気生理検査は心臓内の電気の流れを、心臓内に留置させた電線によって明らかにさせる検査です。電極カテーテルを用いて、心臓に電気刺激を与え、頻拍の誘発を行い、頻拍中の電気の伝達形式を電極カテーテルにて明らかにし、頻拍の回路の同定を行います。回路の同定ができれば、引き続きカテーテルアブレーション治療へと移ります。
②の房室結節性回帰性頻拍症の場合は、房室結節の遅い伝導路をカテーテルにて変性させ、治療します。
③の異常細胞自動能の場合も治療用のカテーテルを異常細胞のところにあてて、熱で変性させます。
いずれの場合も、治療後20~30分経過を見て、頻拍が誘発されなくなったことを確認して終了となります。